研究概要 |
1.慢性心房細動症例104例に対し,基礎心疾患手術にMaze手術を併せて行った.病院死亡は4例であったが,いずれの死因もMaze手術との因果関係はなく,また術後出血のための再開胸を2例に要した以外,重篤な合併症は認めていない.さらに詳細に,Maze手術を同時手術として付加することの安全性を検討しても,同一疾患(僧帽弁閉鎖不全症)に対する同一手術(弁形成術)例を対象にした場合,体外循環時間と大動脈遮断時間が30分程度延長するが,特に手術の危険性が増大することはないと結論できた. 手術生存100例の遠隔期における基本調律の内訳は,洞調律73%,心房細動21%,洞機能不全6%であった. 3.Maze手術による洞調律回復のための術前予測因子として,心房の電気的活動度を表す心電図上のf波高(通常V1誘導)と,心房筋の伸展の度合いを計測する心エコー図上の左房径が臨床上有用であった. 4.Maze手術後に回復した洞調律例で,ホルター心電図により心拍変動を検討すると,術後早期では日内変動が消失していたが約1年後には改善傾向を示した.症候限界性の運動負荷によっても,術後早期には心拍応答の著しい低下をきたすが経時的に改善傾向を示した. 5.心エコー図上,調律回復後には多くの症例で心房収縮能が観察され,さらに術後経時的に改善傾向を示した.しかし,左房能動駆出分画は,術前より洞調律を基本調律としている対象群と比較した場合,安静時および負荷時のいずれもMaze併用群で著しく低下していた. Maze手術前後の血液凝固系の推移の検討で,手術後早期にはD-ダイマー,アンチトロンビンIII複合体が増加傾向にあるものの,慢性期には有意に減少をみた.また,活性化血小板接着分子P-selectinは,手術前後に有意な変化を示さなかった.
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