研究概要 |
われわれは、実験的に肺表面活性物質(surfactant)を除去して作成した傷害肺と,オレイン酸を静注することで作成した傷害肺に対し,リポソーム包埋ヘモグロビン(liposome-encapsulated hemoglobin,LEH)を用いた部分液体換気(Partial Liquid Ventilation,PLV)を施行した時のガス交換と循環動態の変化につき検討した.LBHは期限切れの人赤血球から抽出したヘモグロビンを燐脂質膜であるリポソームで包埋した人工酸素運搬体である.Hb濃度は約6.0g/dL,平均粒子径は約0.20μm.粘度は約2.0cP.P50は45〜55Torrで酸素運搬能力は血液とはほぼ同等である.方法は、体重約2.5kgの日本家兎を用い,静脈麻酔を施し,気管切開後,人工呼吸器に接続し,FiO2=1.0で換気を行った.肺傷害は生理食塩水で肺を4〜6回洗浄し,surfactantを洗い出すことにより作成したものと,オレイン酸を0.1ml/kg/hrで30分間静注し作成したものを準備した.LEHを用いてPLVを施行する洗浄肺LEH-PLV群(n=6)と,オレイン酸LEH-PLV群(n=6).PEEPをかけて通常の換気を行う洗浄肺コントロール群(n=6)と.オレイン酸コントロール群(n=6)に分け検討した.4群とも90分間,動脈血血液ガスを経時的に測定した.その結果、肺傷害作成後のPaO2は洗浄肺群では49.3±13.3Torr,PaCO2は43.3±14.9Torr,オレイン酸群では43.8±5.7Torr,PaCO2は54.8±6.2Torrであった.この後,コントロール群では,洗浄肺群もオレイン酸群もPaO2に改善はみられず,オレイン酸群では43±8分で心停止に至った.しかし,LEH-PLV群では,PaO2はPLV開始後30分で洗浄肺群では252.9±61.4Torr,オレイン酸群では211.3±3.65Torrと改善が認められ,90分間ほぼ安定していた.LEHは酸素運搬能の点で優れており,肺表面活性物質を除去して作成した傷害肺,オレイン酸の注入で作成した傷害肺の両者においてもガス交換は改善した.今後、障害肺に対する治療法として臨床的に応用できる可能性が示唆された.
|