研究概要 |
一側肺動脈閉塞試験での血管作動性物質を検討するに際し、今年度は閉塞前値の基礎データーを把握することを目的とした.現在まで血管拡張因子であるAtrial natriuretic peptide(ANP)とAdrenomedullin(AM)の2項目を測定した.(方法)健常人11名、外科入院患者92名について仰臥位、安静時に動脈血を3cc採血し、-80℃で凍結保存し、ラジオイムノアッセイ法で測定した.(結果)男性57例、女性46例.平均年齢58.7歳(23〜86歳)であった.疾患は健常人11例,良性疾患5例,肺癌26例,胃癌21例,大腸癌14例,乳癌14例,食道癌7例,その他の癌4例であった. 血漿ANP値(mean±SD)を下記に示す.対象103例の平均値は125.0±50.2pg/mlであった.性差別検討では男性129.9±49.7pg/ml,女性118.9±50.7pg/mlと有意差はなかった.年齢別(p=0.03)の検討を2群間で行った結果,65歳以上群は141.4±60.8pg/mlと65歳未満群の110.6±34.2pg/mlに比べ有意に高値(p=0.002)であった.各疾患別では健常人110.5±19.8pg/ml,良性疾患131.3±57.5pg/ml,肺癌130.2±49.6pg/ml,胃癌113.7±37.5pg/ml,大腸癌132.6±56.3pg/ml,乳癌121.2±51.8pg/ml,食道癌165.8±91.6pg/ml,その他の癌104.9±30.3pg/mlであり,食道癌群は胃癌群より有意に高値(p=0.03)を呈した以外は各疾患間に差はみられなかった.高血圧の既往の有無に関し検討したが有症候群と無症候群との間には有意差はみられなかった.更に呼吸機能検査とANPとの相関関係を検討した.全症例では各因子間に相関はみられなかったが,肺癌症例ではFEV1.0%とANPとの間に弱いながら相関がみられた.(r=0.646; p=0.02).また,血漿AM値(mean±SD)を下記に示す.対象103例の平均値は11.45±2.69pg/mlであった. 各疾患別では健常人10.84±1.05pg/ml,良性群10.55±1.28pg/ml,肺癌11.60±2.73pg/ml,胃癌11.70±3.56pg/ml,大腸癌11.44±2.40pg/ml,乳癌11.58±2.99pg/ml,食道癌12.28±2.29pg/ml,その他の癌10.56±3.43pg/mlであり,各疾患間に有意差はみられなかった.また,性差及び年例別検討でも有意差はなく,呼吸機能との関係もみられなかった.(考察)血漿ANPは高齢者群が若年者群より高値を示したが,性差,各疾患間,高血圧の有無とは関係がなかった.肺癌においては閉塞性機能障害と密接に関係にあった.このことが肺切除を行う症例に肺動脈閉塞試験でどのように影響するか収縮因子との因果関係を含め検索する予定である.
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