われわれの昨年度までの研究でラット損傷後根神経の脊髄内再生に対して免疫抑制剤は形態学的な神経再生を促進した。対照群の後根神経は脊髄内に殆ど再生しなかったのに対し、免疫抑制剤投与群の後根神経は旺盛に脊髄内に再生した。免疫抑制剤投与群では対照群に比べ、再生神経の直径は太く、矢状面方向に再生する傾向があった。 このように免疫抑制剤は形態学的に末梢神経の中枢神経内への再生を促進したが、運動機能や脊髄内の後根神経以外の伝導路については検討していなかった。今回、ラット脊髄横断損傷モデルに免疫抑制剤をして脊髄下行路、上行路の形態学的再生を観察し、運動機能の回復を評価する研究を計画した。 研究の第一段階として今年度はラット脊髄横断損傷モデルの作成を行った。横断損傷の部位は下肢の機能的評価を可能にするために第8胸椎レベルとし、ラットを3群に分けて損傷方法の比較検討した。第一群では第8胸椎の椎弓切除を行い、硬膜を含めて横断損傷を作成した。第二群では最小限の椎弓切除(第8胸椎下方5分の1)を行い、硬膜を含めて横断損傷を作成した。第三群では第8胸椎下方5分の1を椎弓切除ののち、硬膜、クモ膜、軟膜を切開して軟膜下で横断損傷を作成した。 第一群では術後死亡率が第三群に比べ有意に高かった。また、第一・二群では下肢運動機能の回復は殆どみられなかったのに対し、第三群では下肢のweight supportはできなかったが上下肢が協調しての歩行様運動がみられた。第三群では硬膜を切断しないため断端どうしが密着しており、また椎弓切除が最小限のため胸椎のalignmentが正常に近く保たれることから、これらの要素が脊髄下行路の再生に促進的に作用するものと考えられた。
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