研究概要 |
神経幹細胞に特異的に発現している中間径フィラメントの一つnestinは正常脳組織では血管内皮細胞などにまれに発現しているのみであるが、神経膠腫では腫瘍細胞や内皮細胞に強く発現し、悪性度が高くなるに比例して発現率も高くなる。このnestin promoterを組み込んだ発現ユニットをアデノウイルスに組み込み、腫瘍摘出腔内に投与すれば神経膠腫細胞に選択的な遺伝子発現が期待される。ただし、nestinの転写活性は比較的低いと予想されるため、直接このpromoterで蛋白質を発現しても十分な遺伝子発現は期待しがたい。そこで、遺伝子転写のon-offを行うシステムとして東京大学医科学研究所斉藤泉博士らが開発したcre-loxPシステムを用いた。 rat genomic libraryよりcloningしたrat nestin promoter,enhancerをrecombinaseCreの上流に組み込んだadenovirus vectorと、現在最も強力なpromoterの一つであるCAGpromoterの下流にloxPによるon-off領域、ついで、lacZ遺伝子を組み込んだアデノウイルスを作成した。これらのアデノウイルスを、ヒトglioma細胞に二重感染させ、X-Gal染色で遺伝子発現を評価した。Northern blotで、nestinが高発現しているglioma細胞(U251,KG-1C,NGM5)では、高い遺伝子発現が見られたが、nestinがほとんど発現していないglioma細胞(U87,NP-2,LN-Z318,T98G)では、弱い遺伝子発現しか認めなかった。 従って、このアデノウイルス二重感染法を用いることにより、nestinを発現しているglioma細胞に特異的な遺伝子治療や、神経幹細胞に特異的な遺伝子発現等への応用の可能性が示唆された。
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