研究の位置付け: PDGF等のサイトカインの髄液注入にて数時間の血管収縮や、増殖性血管症との関連が報告されている。従来の実験は血管とサイトカインとの短時間接触(髄液腔内1回注入)における変化であり、今回の実験では髄液腔にサイトカインを長時間低濃度で保ちサイトカインと脳血管攣縮との関連を検討した。 現在までの過程: 我々の作成した髄液循環が停滞している水頭症マウスを用いて定位脳手術にて脳室を穿刺し、サイトカインを注入、髄液採取等を行ったが、小さく確実性に欠ける為に、まず同様の方法にて水頭症ラットモデルを作成した。水頭症ラットに関してはその作成に再現性が欠けるため、最終的には髄液腔内にサイトカインを低濃度で長時間存在させる方法として、マイクロ浸透圧ポンプを皮下に埋め込み、PDGFを24時間持続的に脳室内に注入する方法を選択し、ノーマルコントロールおよびくも膜下出血ラットモデルの脳底動脈と比較検討した。 結果: 1.従来報告されている、3-0ナイロン糸にて頭蓋内内頚動脈を穿孔させる方法にてくも膜下出血ラットを作成し、出血より6日後の脳底動脈を観察した。脳底動脈には内皮層の蛇行と壁の肥厚、細胞成分の増加等が観察された。2.PDGF 200ng注入ラット群では、未処置ラットと比較して明らかな変化は認められなかったが、400ng注入群ではくも膜下出血ラットよりは軽度であるが同様な変化が認められた。3.TGF-β 500ng注入ラット群では未処置ラットと比較して明らかな変化は認められなかった。 考察: 今回血管の形態学的変化は、より生理的に近い低濃度の髄液中PDGFによる血管の変化であり、くも膜下出血の際の髄液中のPDGF濃度でこのような血管変化が起こることが推測される。
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