研究概要 |
悪性グリオーマの化学療法は重要な補助療法であるが、治療を重ねるにつれ抗癌剤が効かなくなる耐性化現象が観察される。抗癌剤の種類やその作用機序によって耐性のメカニズムは異なるが、我々は悪性脳腫瘍の耐性原因の一つとしてアドリアマイシン、エトボシド耐性に関しては多剤耐性関連遺伝子MRPが関与していることを見出し(Int.J.Cancer 1994)、さらにジハイドロピリジン誘導体等でその耐性克服にも成功した(Brit.J.Cancer 1995)。臨床標本でも、MRPは化学療法後の腫瘍細胞で高発現することを見いだした(J.Neurooncology,in press)。MRPは抗癌剤を細胞外に排出するefflux pumpであり、その発現機序の解明と克服は悪性脳腫瘍の化学療法を行なう上で極めて重要である。また脳腫瘍で用いられるACNUを始めとしたアルキル化剤に対する耐性には、O^6-メチルグアニン-DNAメチルトランスフェラーゼ(MGMT)が関与しており、その遺伝子多型がglioblastomaの発症に関与する可能性を報告してきた(日本脳神経外科総会記事,1997)。更に臨床例において、各種耐性遺伝子の発現は個々の患者で異なることを見いだしており、その生物学的特性に基づいてより効果的かつ安全な化学療法の実施が望まれる。最近我々は、耐性克服に末梢血幹細胞移植を用いた大量化学療法やメトトレキセートなど交差耐性を示さない薬剤での化学療法を試みている(脳神経外科速報,1997)。我々の症例では上記治療により著効を示した症例や、明らかに進行が遅れ有意義な生活を送ることが可能となった症例を経験している。しかしながら化学療法の際、末梢血幹細胞移植を用いても骨髄抑制が問題となる。これらを克服する試みとして骨髄細胞に耐性遺伝子を導入することにより、安全に化学療法を行なうことが期待される。これまでの経験を踏まえ、多剤耐性遺伝子に関する基礎的研究をすすめ、より効果的な抗癌剤の投与方法を検討すると同時に、骨髄細胞に対する遺伝子療法を用いて多剤耐性克服に向けて取り組みたい。
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