研究概要 |
我々はこれまでに髄膜腫では核に高率にProgesteron receptorが発現し、細胞増殖能が増して悪性化してくるにつれてProgesteron receptorは発現しなくなってくることを報告した。また、悪性髄膜腫に於いては、高率にp53 protein が発現し、SSCP・免疫染色・Western blottingなどの結果から、これがmutant-p53 proteinではなく、機能を喪失したwild-type p53 proteinであり、これが悪性髄膜腫の放射線療法・化学療法等に対する治療抵抗性や腫瘍の増殖に大きく関与していることを報告した。しかし実際にProgesteron receptorがどのように髄膜腫の増殖をコントロールしているのか、悪性髄膜腫ではp53 proteinによるapoptosisが起こらなくなった上で、どのようなファクターが腫瘍の増殖を促進しているのか、何故wild-type p53 proteinが悪性髄膜腫では機能を失うのかはまだわかっていない。また、剖検脳を用いた実験で、悪性神経膠腫ではVEGFの発現を含め様々なgrowth factorが腫瘍の外側の正常脳実質内でも発現しており、悪性髄膜腫に於いて腫瘍周辺の正常組織内でどのような反応が起こっているのかも、腫瘍の治療をする上で重要な情報となる。本年度はこうした事の解明を目的とする。 髄膜腫の悪性転化については、今年度はc-mycとPDGFに着目して研究を行った。その結果、c-myc protein及びc-myc mRNAはatypical及びanaplasticのmalignant meningiomaのみで発現しており、これまでの検討ともあわせ、c-myc activationがp53 stabilizationと同時に起こることにより、髄膜腫が悪性化していくと考えられた。PDGF,c-sisに関しては、悪性・良性を問わずすべての髄膜腫で発現しており、これはprogesteronなどのホルモンレセプターを会して髄膜腫の成長に関与しているものと思われた。 また、剖検脳を用いた検討では、MMP-2,MMP-9,MT-MMPなどのproteolytic agentは、VEGFなどとともに腫瘍内より腫瘍周辺に特に多く発現しており、腫瘍の浸潤に大きな役割を果たしているものと思われた。 今後更に、髄膜腫の悪性転化や成長の機序、悪性神経膠腫の浸潤などについての検討を進める必要があると考えられた。
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