乳癌患者246例を対象に、その原発巣組織中の副甲状腺ホルモン関連ペプチドN末端(PTH-rP)と癌遺伝子c-erbB-2を免疫組織化学染色で評価した。原発腫瘍組織中のPTH-rP、c-erbB-2および他の諸因子(腫瘍の組織型、病期)などを乳癌における骨転移発生のリスクファクターと仮定し、リスクファクター分析を行った。乳癌組織中のPTH-rPの陽性率は55%で、c-erbB-2は17%であった。調査時点では246例中21例に骨転移が発生しており、25例の死亡が確認された。多重ロジスティック・モデルを用いた危険因子分析の結果、骨転移の危険因子としては、病期が最も重要で、ついでPTH-rPがこれに続いた。また、病期のstage2以上の例を対象とした多重ロジスティック・モデルでは骨転移発生の最重要危険因子はPTH-rPであることが明らかとなった。c-erbB-2は骨転移の危険因子としては有意なものではなかったが、stage2以上群の生命予後決定因子としては重要なものであった。以上より、stage2以上の乳癌患者の術後経過観察に際し、PTH-rP陽性群は骨転移のhighriskgroupであり、特に重点的な骨転移の監視を行うべきといえる。また、これらのうちでc-erbB-2陰性の患者では骨転移発生後も比較的長期の生存が期待できるため、積極的な手術療法の対象となる可能性が高く、末期乳癌患者の整形外科的管理の重要な指標となる。一方、乳癌脊椎転移における脊椎転移形態と椎体圧潰発生の関係から、胸椎では転移性腫瘍の脊椎に占める大きさよりも、腫瘍の転移部位が椎体圧潰を規定する重要な因子であるという研究者らが前回の奨励研究(A)で数学的手法を用いて推測した仮説を裏付ける結果が得られた。
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