研究概要 |
偽関節の病態を分子生物学的に解明する目的で、i)実験系の開発、ii)通常の骨折治癒過程における種々の物質の遺伝子発現の解析、 iii)手術時に採取したヒト偽関節組織における様々な基質蛋白、成長因子の遺伝子発現の解析を行った。尚、手術時の検体採取に関しては、その使用・研究目的について患者に十分説明し承諾を得た上で行った。 i) 系のついては、高度に石灰化したヒトの骨組織でも効率良くかつ高感度で解析できる、マイクロウエーブによる脱灰を利用したin situ hybridization(ISH)法の新しいシステムを開発した。(Biotechnic Histochemistry,in press)ii)マウス肋骨骨折モデルを用い骨折後 12日目の仮骨におけるosteonectin(OSN),osteopont1n(OSP),osteocalcin(OSC)の遺伝子発現について、ISH法を用い検討した。その結果、1.軟骨-骨置換部位の石灰化軟骨層の細胞においてOSN遺伝子の発現は消失し、逆にOSP遺伝子の発現が誘導された。2. OSN,OSP両遺伝子のon-off機構が骨折治癒における軟骨-骨置換過程の分子メカニズムの一つである。3.これらの遺伝子発現機構の異常が偽関節や遷延治癒の一因となり得、またこれらの遺伝子発現をコントロールすることにより軟骨から骨への置換を促進させうる可能性がある、という結論を得た(Acta Hisochem.1998)。さらにラット骨延長モデルを用いてメカニカルストレスと骨基質蛋白や骨形成因子の遺伝子発現について検討し、牽引ストレスにより OSN,OSP,OSCや骨形成因子である BMP-2,4の遺伝子発現が誘導されることを見いだした(J.Bone Miner.Res.1998/Trans.Orthop.Res.Soc.1999)。iii) ヒト偽関節組織と、骨折仮骨組織にて ISH法を行い、その結果、骨折仮骨部に比し、偽関節部においては線維芽細胞による typeIII collagen遺伝子発現の亢進と BMP遺伝子発現の低下を認めた。 以上の結果は、BMP遺伝子発現の抑制が骨折偽関節の要因のひとつとなる可能性を示唆するものである。
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