慢性絞扼神経障害の病態は、未だ不明な点が多い。その病態を解明するために種々の動物モデルを用いて研究が行われているが、その何れも電気生理学的、病理組織学的な観察が主になっている。本症において痛みは臨床上重要な症状の一つである。その痛みを、脊髄後根ニューロンでのc-fos蛋白などのimmediate early genes(IEGs)の発現をin situ hybridization法によって形態的に検出することが、本研究の目的である。 本年度は主に絞扼障害モデルの作成を行った。モデルとして、Wistar系成熟ラットの坐骨神経に、その径よりも若干内径の太いシリコンチューブを囲橈するMackinnonら(1986)の方法を採用した。このモデルでは、シリコンチューブが、坐骨神経より若干太いため、坐骨神経とシリコンチューブとの間に非特異性線維組織が形成され、それがシリコンチューブと共に徐々に坐骨神経を圧迫する事により、まず血液-神経関門の崩壊が術後1ないし2カ月で生じ、神経束内の圧が上昇し徐々に神経障害が完成していく。よって、亜急性圧迫神経障害を生じさせる他のモデルと異なり、臨床例に極めて近い絞扼障害を生じさせることが可能である。一方、本モデルの場合、電気生理学的に神経伝導速度が低下するのは、シリコンチューブ囲橈後8カ月、明らかな病理組織学的な変化が生じるのが術後6以後という具合に絞扼障害が完成するために長期間を要する。よって本年度は実験モデルの作成につとめ、来年度に絞扼障害の完成したものから順次c-fos蛋白などのIEGsの脊髄後根での発現を検索する。
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