1. ラットの皮下脂肪筋膜組織内の血行・神経路の変化 ラット背部皮弁モデルを用いて血管網の変化を微小血管造影法にて観察し、以下の知見を得た。 1) ラットの皮弁は、皮弁基部の皮下組織より流入する特定の神経血管束(以下、血管茎)の血流で栄養される。 2) 皮弁の血管茎は、皮弁内の他の神経血管束と連結して、皮弁を貫通するような血管網を5日以内に再構成する。 3) 皮弁の中心部に血管茎をおく方が、効率よく血管網が再構成され、皮弁の生着域も広い。 4) 皮弁の主血管茎以外の副血管茎を置くと、血管網を大きく再編成させることなく生着域が拡大する。副狸管茎が、動脈のみまたは静脈のみでも生着拡大効果(動脈のみの100%、静脈のみの70%)を認めた。 5) ラット皮下・皮内静脈の静脈弁は、ヒトや他の動物に比べて逆流を起こしやすい。 6) 皮弁母床部の皮下筋膜内の血管が増生し、皮弁血行路と連結する現象を認めた。 2. ヒトの皮下脂肪筋膜組織内の血行・神経路の観察と、臨床応用 全身動脈造影を施行した新鮮死体で観察し、以下の解剖学的知見を得た。ラットでの実験結果を統合して検討し、それに基づく臨床応用を行った。 1) 腋窩の皮下脂肪筋膜内の血行・神経路:[解剖学的知見]皮膚面に対して垂直に筋膜、血管・神経路が走行・付着していた。[臨床応用]皮膚面に垂直の筋膜、血管、神経を温存することで、腋臭症手術(汗腺除去術)の皮弁壊死、皮下血腫、感覚障害など術後合併症を極めて軽減できた。 2) 四肢の皮下脂肪筋膜内の血行・神経路:[解剖学的知見]四肢を縦走するように皮膚面に平行に走行する筋膜、血行・神経路が存在した。[臨床応用]皮膚面に平行な筋膜神経血管系を皮弁茎とする新しい筋膜皮弁を開発し、下腿遠位・足部の再建が従来法に比べて容易となった。
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