椎間板細胞は、関節軟骨類似のマトリックス産生能を有する線維輪細胞と胎生期の脊索の遺残とされる髄核細胞から構成され、力学的刺激や種々の液性因子によって代謝調節を受け、自ら恒常性の維持に関わることが明らかになっている。椎間板マトリックスの主要成分であるII型コラーゲン分子は、胎生期には非軟骨組織にも一過性に広く分布しており、軟骨組織の分化過程において、その一次転写産物がN-プロペプチド領域で選択的splicingを受け、short formにスイッチされる。そのため第2エクソンを含むlong formが、軟骨形成能を有する未分化な細胞および非軟骨組織のマーカーになりうることが示唆されている。本研究は、分化および修復過程における椎間板細胞の形質変化を明らかにする目的で、II型コラーゲン遺伝子の発現パターンを解析した。まず、妊娠14日目の家兎胎児から全RNAを抽出し、家兎II型コラーゲンN-プロペプチドおよびC-プロペプチド領域についてRT-PCRを行い、サブクローニング後、cDNA塩基配列を決定した。RNase protection assayによりsplicingパターンを調べると、胎児における発現は妊娠17日目を境にlong formからshort form優位へと変化し、硝子軟骨および線維軟骨では出生後すでにshort formが主体であった。一方、生後12週齢では非軟骨組織である髄核もshort form優位へとスイッチしており、分化した軟骨細胞様の形質を有する細胞が存在する可能性を示唆した。本研究は、家兎椎間板の分化過程をII型コラーゲン合成の観点から明らかにしたもので、今後、ヒト椎間板細胞に特異的なII型コラーゲン遺伝子の転写調節領域を分子レベルで解析することで、マトリックス代謝を調節するシグナル解明の糸口が得られると思われる。
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