(目的) 従来の硬膜外刺激記録や経頭蓋刺激筋記録の誘発電位導出の欠点を克服すべく、経鼻咽頭電極を開発し、これと棘間靭帯内電極を組み合わせることにより、硬膜内または硬膜外腔に電極を刺入することなく安全で確実なモニタリング方法を確立する。 (方法) 15例の脊椎手術において、経鼻咽頭電極を設置し、長さ3cmの棘間靭帯内電極を胸椎部棘間に縦に2本刺入した。電極間距離は3-5cmとした。さらにくも膜下腔にもカテーテル型電極を設置した。経鼻咽頭電極刺激の棘間靭帯内電極記録の下行性脊髄誘発電位とくも膜下腔カテーテル型電極記録の下行性脊髄誘発電位を比較した。また棘間靭帯内電極刺激の経鼻咽頭電極記録の上行性脊髄誘発電位の導出も試みた。 (結果) 15例中、棘間靭帯内電極記録の下行性脊髄誘発電位と棘間靭帯内電極刺激の経鼻咽頭電極記録の上行性脊髄誘発電位は12例で導出可能であった。導出不可能であった3例は日本整形外科学会頚髄症基準5/17点以下の重症例であった。棘間靭帯内電極記録の下行性脊髄誘発電位とくも膜下腔カテーテル型電極記録の下行性脊髄誘発電位の比較では、前者で導出不可能であった3例においても後者では電位の記録が可能であった。電位振幅も前者は後者のl/3程度であったが、棘間靭帯内電極をくも膜下腔カテーテル型電極よりも頭側に設置すると後者よりも大きい振幅で電位が記録された。 (考察) カテーテル型電極の硬膜外腔設置は、局所麻酔下に刺入するためある程度の疼痛をともなうこと、出血傾向のある患者では硬膜外腔血腫のリスク、手技がやや繁雑であるなどの欠点がある。くも膜下腔への刺入では侵襲としては、硬膜外腔設置よりも大きい、髄膜炎のリスク、電極設置部位の確認にX線が必要などの欠点がある。経鼻咽頭電極と棘間靭帯内電極を併せて用いることによりこれらの問題点が解決された。脊髄症状の特に重症でない症例においてはカテーテル型電極なしに脊髄機能モニタリングが可能である。また近年行われている筋誘発の運動誘発電位よりも、信頼性が高く導出方法も容易であり、上位頚髄から仙髄まで脊髄全搬にわたるモニタリングに利用できる。
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