研究概要 |
平成9年度は変形性膝関節症患者の軟骨組織に関節液を反応させ線溶系因子の変動を観察することで線溶系による関節炎発症のメカニズムを探究した.変形性膝関節症患者に対して人工膝関節置換術を施行した際に採取した軟骨で5×5×2mm大の軟骨diskを作成した。関節水腫を伴った変形性膝関節症患者の関節液を細胞成分を除去したもの(cell-群)と細胞成分を含んだもの(cell+群)とに分けそれぞれ1-100倍に希釈し、それらで軟骨diskを刺激し上清中に放出される線溶系因子を測定した。cell-群とcell+群に含まれていたplasminogen activator(PA)PA活性量とPA inhibitor-I(PAI-1)抗原量はいずれもcell+群で高値である傾向を示したが、両者の間では有意差は認められなかった。軟骨diskを関節液で刺激した後の上清中に放出された線溶系因子は経時的に増加傾向を示したが、特に10倍希釈での増加度が著明であった。cell+群のPA活性量は24,48時間とも10倍希釈でcell-群に比べ有意な増加を示した。一方、cell+群のPAI-1抗原量は24時間,10倍希釈でcell-群に比べ有為な低下を示した。また48時間では有意差は認められなかったもののcell-群に比べ低下している傾向を示した。 今回の結果から変形性膝関節症の関節破壊は関節液中に細胞成分が含まれることで軟骨組織から分泌されるインヒビターが優位となり、結果的に線溶活性を抑えること、すなわちu-PAそのものよりもPAI-1の変化が重要であることが示唆された.これらの反応は関節液中に存在する種々のサイトカイン等だけではなく、細胞成分の分泌するサイトカインおよび接着因子等による軟骨組織への影響が線溶系における軟骨破壊に関与しているものと考えられる。 以上のことより当初計画した実験目標は達成され,変形性関節症の病態の一端が明らかにされたと考えられる.
|