昨今、脳変性疾患、痴呆症、脳虚血などの成因として神経細胞のアポトーシスの関与が示唆されている。手術適応の拡大に伴いこのような疾患を持つ患者の麻酔管理も増大している。したがって、各種麻酔薬が神経系細胞のアポトーシスにどのような影響を与えるかを知る必要がある。平成9年度は、神経系細胞のモデルとしてラット副腎髄質褐色細胞腫由来のPC12細胞を用い、静脈麻酔薬が神経系アポトーシスにどのような影響を与えるか検討した。 まず培養液からの血清除去によりアポトーシスを誘導し、アポトーシスに最も特異的とされるDNAの断片化を証明するため、DNA抽出とアガロースゲル電気泳動を行った。その結果アポトーシス誘導1日後からDNAの断片化を示すladder像がDNA電気泳動像で得られた。静脈麻酔薬としては周術期管理で汎用されるバルビツレートのペントバルビタール、ベンゾジアゼピン誘導体のミダゾラムの効果を検討した。評価はアポトーシス誘導4日後の細胞死の判定とアポトーシス細胞の定量化で行った。すなわち、細胞死の判定は培養液中に遊離した乳酸脱水素酵素活性によって、アポトーシス細胞の定量化は細胞をアルコール固定後ヨウ化プロピジウムで染色しフローサイトメトリーによりDNA含量を測定し行った。結果、ペントバルビタールは用量依存性に、細胞死ならびにアポトーシス細胞の割合の増大を抑制した。一方、ミダゾラムには有意な効果を認めなかった。本研究により、神経系アポトーシスに対してバルビツレートが抑制的であることが初めて明らかにされた。さらに、本研究で得られた所見は、in vivoモデルで見られるバルビツレートの脳保護効果が、アポトーシスの抑制と関連している可能性を示唆させるものである。
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