昨年度の研究で虚血再灌流群で肺動脈血管内皮細胞由来の拡張反応が減弱していることが分かった。本年度はこの拡張反応をPARS(Poly ADP-ribose Synthetase)阻害薬投与により改善できるかについて研究した。 (方法)雄SDラット(体重350-450g)を用いた。麻酔後開腹し腸管膜動脈を1時間クランプし、解除5分前にPARS阻害薬(3-aminobenzamide)の投与を開始した。3群(1mg群、5mg群、10mg群)に分け、1mg群は1mg/kg投与後1mg/kg/hで持続投与し、5mg群、10mg群も同様に初回投与と持続投与を施行した。再灌流は1時間行った。再灌流終了後、ヘパリンを静注し3mm長の肺血管リングを摘出した。肺血管リングを緩衝液内に吊るし1000mgの張力を懸けフェニレフリン10^<-6>Mを投与して前収縮させた後、アセチルコリン(レセプター依存性)、A23187(レセプター非依存性)を10^<-9>〜10^<-6>M投与した時の拡張反応を測定した。 (結果) PARS阻害薬5mg群、10mg群で有意に虚血再灌流群より拡張反応が改善し、腸間膜動脈非クランプ群の拡張反応と同等であった。また、5mg群と10mg群では拡張反応の改善に有意差はみられなかった。1mg群では拡張反応を改善しなかった。統計学的検定にはANOVAを用い、5%未満を有意差ありとした。 (まとめ) PARS阻害薬は虚血再灌流よる血管内皮細胞障害を改善した。ラットの虚血再灌流モデルではヒトのARDSやエンドトキシンショック時と同様の肺組織像がみられることから、このような病態に対してPARS阻害薬が有効な治療手段となる可能性が示唆された。虚血再灌流による組識障害が好中球集積、elastase放出を起因としていることから、今後更にPARS阻害薬が肺への好中球浸潤を抑制するかについて検討する予定である。
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