脳虚血においては、NMDAレセプタが活性化されることが知られている。前年度の検討結果から、吸入麻酔薬およびケタミンはNMDAレセプタを抑制するが、バルビツレートおよびプロポフォールは作用しないことが明らかとなった。したがってNMDAレセプタの抑制という観点からは、吸入麻酔薬およびケタミンが虚血における脳保護に対し有効である可能性が示唆されたが、この点を明確にするために、本年度は虚血脳モデルを用いた検討を行った。 ラット海馬スライスのSchaffer collateral fiberに刺激電極を置き、CAl領域に細胞外電極を刺入して、集合電位(PS)を記録した。100μM NaCNを灌流してchemical hypoxiaのモデルを作成し、全身麻酔薬の保護効果について検討した。実験は37℃で行った。 NaCNの灌流(15分)は、PS amplitudeを不可逆性に抑制した。30分間のケタミン(1mM)前処置により、NaCNの効果が減弱する傾向を示したが統計学的な有意差は認められなかった。これは、(1)chemical hypoxiaの効果が脳スライス間でばらつく、(2)chemical hypoxiaとhypoxic hypoxiaで細胞レベルの病態が異なる、(3)全身麻酔薬単独では充分な脳保護効果を得られない、などの理由によると考えられた。今後は、(1)低濃度のCNを長時間灌流する、あるいは(2)窒素ガスによるhypoxic hypoxiaを誘導することにより、より安定した脳虚血モデルを作成して検討を重ねたい。さらに全身麻酔薬に低体温を付加し、脳保護効果について検討したい。
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