ニトログリセリン(GTN)、ニトロプルシッド(SNP)などの硝酸塩は、虚血性心疾患や慢性心不全の治療に繁用されているが、長期連用でしばしば効果が減弱する、いわゆる耐性が惹起されるため問題となっている。本研究では、GTNの耐性発現機序をNOと関連づけて検討した。 【方法】1.機能実験:ラットの胸部大動脈を摘出し、内皮除去後らせん状条片として、GTN、SNPの弛緩反応を調べた。NOによる耐性発現には、GTNやSNPを繰り返し処置してNO(外来性NO)に標本をあらかじめ暴露させる方法、リポポリサッカリド(LPS)でNO合成酵素(iNOS)を誘導させL-arginineからのNO(内因性NO)に暴露させる方法、の2つを用いた。2.cGMP、NOの測定:LPSで前処置そ、あらかじめNOに暴露させた大動脈標本での、GTNおよびSNPによるcGMP産生、遊離nitrite/nitrate量を定量した。 【結果】外来性NO、内因性NOにあらかじめ暴露させた標本では、GTNの弛緩反応とcGMP産生能は次第に減弱化し耐性を惹起した。動脈標本とGTNをインキュベートするとNOを遊離したが、あらかじめNO処置した標本では、GTNからのNO遊離は有意に抑制された。一方、対照薬として用いたSNPの反応(弛緩反応、cGMP産生、NO遊離)は、上記の外来性、内因性NO暴露で、ほとんど影響を受けなかった。 【考察】GTNはSNPと異なり、標本をあらかじめNOに暴露させることにより、容易に耐性を発現した。また、GTNからのNO遊離は、SNPの場合と異なり、NO暴露によって有意に抑制された。この結果より、GTNの耐性発現は、主としてGTNからNOを遊離する転換酵素の失活により惹起されていることが強く示唆された。
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