神経筋接合部にはアセルコリン受容体(AChR)がパッチを作って高度に集積している。これまでのノックアウトマウスの実験などから、運動神経が分泌するアグリン、神経筋接合部にAChRとともに集積しているラプシン及びMuSKがこの形成機序に深く関わっていることが示されている。特に興味深いことにはラプシンを線維芽細胞に導入するとパッチを形成し、AChRをその部位に共集積させる働きがある。ラプシンに結合する蛋白をスクリーニングする第一歩として、今年度はラプシンのパッチ形成がどのような分子機構でおこっているかを明らかにすることを主たる研究目標とした。 1)チロシンキナーゼの関与 アグリンによるAChRのパッチ形成はチロシンキナーゼ阻害薬で抑制されることが知られている。チロシンキナーゼ阻害薬の存在下でラプシンを線維芽細胞に導入してすると容量依存性にパッチの形成が最高70%抑制された。またパッチとリン酸化チロシンが共存しており、ラプシンと共沈する蛋白には70kDaの接着班でリン酸化されるパキシリンに似た蛋白が存在した。 2)細胞骨格の関与 神経筋接合部には細胞骨格を構成する蛋白が集積している。細胞骨格を制御する分子として低分子量G蛋白であるrhoの役割が近年注目を浴びている。ラプシンのパッチ形成がrhoによって起こっているかどうかを調べるため、線維芽細胞にラプシンを導入して、C3毒素、N19-rhoなどのrhoを不活化する蛋白をマイクロインジェクトした。これらの蛋白によりラプシンのパッチ形成の50%が抑制され、少なくとも一部にはrhoが働いていることを示唆する結果を得た。 以上の結果より、神経筋接合部の形成の初期段階でおそらくは接着班に局在するチロシンキナーゼやrhoの活性化が起こっていることがわかった。したがって、ラプシンのパッチ形成には細胞骨格の再構築に関わる分子が大きな役割を果たしていることが考えられる。
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