【背景と目的】高血糖を呈する頭部外傷患者は予後が不良とされている。これは、高血糖が二次的脳障害を増悪させる可能性を示唆し、その機序としてブドウ糖の嫌気性代謝による細胞内アシドーシス進行、それによるフリーラジカル産生促進などが想定される。本研究はラット頭部外傷モデルにおいて、高血糖が外傷後の神経学的予後と脳組織pHに及ぼす影響を検討した。【方法】Wistar系雄性ラットを、イソフルラン(Iso)・酸素麻酔下に挿管・人工呼吸を行い、動静脈にカニュレーションした。脳定位装置に固定、左半球側に開窓した。まず、ラットを無作為に正常血糖(NG)群、高血糖(HG)群の2群に分類した。HG群では25%ブドウ糖+1/2生理食塩水を、NG群では1/2生理食塩水を、外傷10分前から外傷後4時間にわたり、同容量を持続静注した。硬膜上に置いたアルミ片に高さ15cmから5.7gの重りを落下し外傷作成後に閉頭、覚醒、抜管した。抜管後24、48時間目の神経所見をスコア化(0-20点、0:正常、20:死亡)した。次に、同じモデルで外傷30分前に、pH測定電極を傷害部近傍へ刺入し、外傷後150分まで脳組織pHを連続測定し、両群で比較した。その間、血圧、頭蓋温、血液ガス、血糖測定を行った。【結果】外傷作成時の血糖値はHG群:820mg/dl(平均値)、NG群:154mg/dlであった。両群間で24、48時間とも神経スコアに差はなかった。また、外傷後150分間の脳組織pH変化も、HG群でアシドーシスの進行はみられなかった(pH:7.15→7.32(平均値))。【考察】本研究では、少なくとも外傷後150分間の血圧は維持され、急性期に脳血流が低下しなかった可能性がある。これが脳組織pHの変化、神経予後に影響した可能性が考えられる。【結論】高血糖単独では、頭部外傷後の二次的脳障害は増悪しない可能性が示唆された。
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