手術中における心筋虚血の早期発見には心電図波形の時間圧縮トレンドのモニタリングが有効であることを我々は提唱している。重症患者監視システムを用いて当院の全手術症例の術中心電図波形を毎日自動記録し、これまでに予期せぬ致死的不整脈に至った4症例の心電図波形を記録した。先行するST変化を心電図波形時間圧縮トレンドで解析した結果、2症例は心室性頻拍が出現する3.5分と19分前にST変化が認められたものの担当麻酔医は気づいておらず、ST変化を認識したのは致死的不整脈出現の直前であった。他の2症例は心電図波形時間圧縮トレンドで認められるST変化の時期と同じ頃に麻酔医は異常に気がついていた。術中に起こりうる致死的不整脈の初期には必ずST変化が先行して生じており、我々の提唱する心電図波形時間圧縮トレンドが早期にかつ見落とし無く致死的不整脈の予知が可能であることがこれら4症例の解析からわかった。さらに我々はこの1年間で遭遇した致死的不整脈をきたした3症例を加え、ST変化だけではなく心電図のR-R波間隔の変動が致死間と不整脈に先行して生じているか否かを多用途生体情報解析プログラムBIMUTAS(キッセイコムテク)を用いて解析した。その結果、致死的不整脈に先行するR-R波間隔の変動は認めなかった。同症例のST波形の変化に伴うST波形の面積の変化もST変化と一致して致死的不整脈発生に先行していた。このことから致死的不整脈の予知の感度が優れているのはST変化およびST面積の変化であるが、ST面積のトレンド表示は困難で術中のモニタリングとしてはST変化の時間圧縮トレンドが簡便かつ有益であるとの結論に達した。現在、この成果の内容を麻酔関連雑誌に投稿すべく準備中である。
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