研究目的は、肺血管のメディエーターによる収縮に対する各種血管拡張薬の作用を検討することである。 肺血管収縮が人工心肺後やアナフィラキシー時におこることはよく知られており、血中のカテコラミンやトロンボキサンA_2の上昇によるものと考えられている。またα作用薬は高血圧患者に広く使われているし、最近ではその鎮痛、鎮静作用が麻酔補助薬として検討されている。しかし肺血管トーヌスに対するα作用薬の影響はまだよく知られていない。そこでラット肺動脈を用い、ノルエピネフリン(NE)およびU46619(トロンボキサンA_2アナログ)による血管収縮におけるα作用薬の直接作用を調べた。 雄性ウイスターラットの肺動脈本幹を取り出し3mmの血管リングを作製し、マイクロイージーマグヌスを用い、酸素95%二酸化炭素5%で通気したKrebs-Henseleit液中で最適の静止張力を与え定常状態をえた。NEおよびU46619で収縮させた肺動脈リングに、α作用薬であるクロニジンを段階的に投与した。加えてα拮抗薬、血管内皮の除去、NOS阻害薬の影響も調べた。結果は、クロニジンはNEで前収縮させたリングを拡張したが、その作用はヨヒンビンに影響されなかった。反対にU46619で前収縮させたリングをクロニジンは更に収縮させ、その作用はプラゾシンで消失したが、ヨヒンビンには影響は受けなかった。血管内皮の除去もNOS阻害薬もNEで前収縮させたリングのクロニジンの拡張作用に影響しなかった。 クロニジンは収縮薬の機序の違いによりまったく反対の作用を示した。クロニジンのU46619前収縮したリングに対する収縮作用はα_1刺激作用によるものであろう。クロニジンのNEで前収縮させたリングに対する拡張作用は、相対的なα_1拮抗作用によるものであろう。この実験の臨床的意義は、ノルエピネフリンによる肺高血圧に対してはクロニジンは有効だが、トロンボキサンA_2による肺高血圧に対しては逆に悪化させる可能性が示唆される。
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