耳垂部皮膚血流量変動より局所の交感神経活動の指標を得る事ができるか否か検討するため、以下の研究を行った。<研究1:交感神経活動を低下させた場合の検討>全脊椎麻酔、胸部硬膜外麻酔、胸部交感神経節切除術、右星状神経節ブロックが耳垂部皮膚血流量変動に及ぼす影響を検討した。方法:上記神経ブロック施行前後でレーザードップラ血流計による左右耳垂部皮膚血流量信号を記録した後、低周波成分(0.04-0.20Hz)振幅を求め、ブロック前後での変化を調べた。結果:低周波成分振幅は前2群では減少したが、後2群では一定の傾向を示さなかった。考察:遮断が広範囲に及ぶ前2群では遮断後、低周波成分振幅は減少したが、遮断が狭い範囲に限局した後2群においては一定の方向への変化を示さなかった。このことは交感神経遮断が耳垂部皮膚血流量の低周波成分振幅の大きさを変化させることを示す。ただし遮断の過程と低周波成分の振幅の大きさとの関係は線形の関係ではないことが示された。<研究2:交感神経活動を亢進させた場合の検討>:70度ヘッドアップティルト試験による人為的な交感神経賦活が耳垂部皮膚血流変動に及ぼす影響を検討した。方法:ヘッドアップティルトが耳垂部皮膚血流変動に及ぼす影響を、血圧変動と同時に解析することにより検討した。結果:耳垂部皮膚血流量の低周波成分振幅の大きさは立位により一定の方向への変化を示さず、また血流変動の低周波成分のピーク部に対する血圧のコヒーレンスは立位により増加した。考察:耳垂部皮膚血流量の低周波成分振幅と交感神経活動の間に線形の相関関係がないことが示唆された。ただし立位時には血圧とのコヒーレンスが強くなった。 以上の2つの研究より耳垂部皮膚血流量の低周波成分には交感神経活動以外の因子(血管平滑筋原性のvasomotionなど)が影響し、交感神経活動の直接の指標にはならないことが示された。
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