現在少なくとも動物実験においては、軽度の低体温が虚血障害から神経細胞を蘇生させることが確実視されている。最近一過性脳虚血モデルにおいて、虚血再環流後から開始する低体温でも神経細胞を致死的過程から蘇生させうることが証明されている。また臨床においても脳低体温療法は最近注目を集めているが、脳卒中にしても外傷にしても、発作や受傷後ある時間の経過の後に開始されるのが通常であるが、それでもこの低体温療法が有効である報告が散見されるようになってきた。そこで今年度は砂ネズミの一過性前脳虚血モデルを用い、虚血後の低体温が砂ネズミ海馬において、形態学的に、遅発性神経細胞死ひいてはアポトーシスを示唆する所見が抑制されるか否かに焦点をあてて検討した。 1)脳血流再灌流後の経時的変化を調べる目的で、虚血解除後に3日から7日間の生存期間をおいたモデルで、脳虚血後の低体温療法が核の形態学的変化を含め遅発性神経細胞死特有の変化を防ぎうることが電子顕微鏡レベルでも明らかになった。 2)TUNEL法による検索で、核内DNAの変化も有意に抑制されることも明らかになった。またアポトーシス促進過程で発現するBax蛋白も、低体温により発現が抑制されることが免疫組織化学的手法により明らかとなった。 3)虚血後の神経細胞の変化がtherapeutic windowをもつ積極的な細胞死であり、低体温療法による可逆性の過程を明らかにすることで臨床応用での発展性も期待できる。
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