心臓外科手術時、体外循環による血小板機能低下を避ける目的で、手術開始後体外循環前に血液成分分離装置を用いて患者本人の濃厚血小板を採取し体外循環後に返血する方法を行った。効果判定のために術中の血小板凝集能の推移を測定した.濃厚血小板採取、返血に伴う副作用の有無を見るために血行動態、血液ガス、電解質、血中インターロイキン6(IL-6)の推移を血小板を採取しなかった群(コントロール群)との間で比較を行った。 コントロール群において、血小板凝集能は体外循環直後の測定時点より著明に低下傾向であり、手術終了時まで回復しなかった。血小板採取群では体外循環直後の時点でコントロール群と同程度まで低下していたのが濃厚血小板返血後、手術終了時の時点で有意に上昇した。手術終了時の血小板数には両群で差がなかった。このことから、血小板の質に両群で差があることが考えられ、以前から述べられているように体外循環により何らかの機序で血小板の機能低下が起きることが示唆される。 血行動態、血液ガス分析結果は経過中両群で差はみられなかった。電解質では、濃厚血小板採取時に使用する抗凝固剤であるACD液に含まれるクエン酸の影響によりイオン化カルシウム濃度がコントロール群に比べかなり低下する傾向が見られ、場合によってはカルシウム剤投与が必要な場合があった。 血中IL-6は体外循環終了後より著明に増加し、体外循環直後から手術終了後時間の時点でも高値を保っており、両群に有意差はなかった。濃厚血小板採取が体外循環後の全身炎症程度に影響を及ぼすものではないと考えられる。 この方法により、体外循環を用いる心臓外科手術時に全身状態に悪影響を与えずに血小板機能低下を回避し、出血傾向の防止、手術時間の短縮、輸血量の削減に結びつくことが示された。
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