超低体温法における血管内皮細胞障害について、血管内皮由来の物質(NOx、エンドセリン(ET)等)測定を行い、低体温の程度による影響について評価を行った。 低体温体外循環下に心臓・大血管手術を受ける予定手術患者を対象とし、34〜36℃をmildhypothermia群、25〜30℃をmoderate hypothermia群、15〜20℃をdeephypothermia群と三群に分けた。各々の各ポイントで採血を行いNOx、ET測定を行った。また血管内皮機能検査のため、人工心肺中、大動脈遮断後に潅流圧が安定した時点(低体温時)でアセチルコリン負荷テストを行い、皮膚血流量及び灌流圧を連続的に測定し、比較検討した。 現在までの対象症例は50名で、各群において患者の特性、及び循環動態に差はなかった。麻酔導入後の血中NOx、ET濃度を100%としその経過を比較した。体外循環中においては全例血中NOx、ET濃度は有意に減少を示し、回復過程においては低体温の程度が強い症例ほど減少は持続した。アセチルコリン負荷テストでは、低体温の程度が強いほど血管拡張反応が減少し、回復に要する時間は長く経過した。皮膚血流量の減少量と回復過程も同様の結果となった。 これらの結果より、低体温体外循環は血管内皮細胞障害を発生させ、内皮機能を有する基礎吋の放出およびETの放出が抑制され、血管緊張度を調節する機能に重大な影響を与えているものと考えられる。この血管内皮細胞障害により、血栓形成や血管彎縮などにより微小循環障害が起こることが推測された。 術中の超低体温により血管内皮細胞は障害を受け、血管内皮由来の物質であるNOやET濃度は減少し、血管緊張度を調節する機能が障害された。低体温時に行われた血管内皮に対するアセチルコリン負荷テストにおいても、その反応性は減弱し、機能的内皮障害の存在を示唆した。
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