排尿は膀胱の収縮と尿道の弛緩という膀胱と尿道の協調活動で起こるが、脊髄損傷などで脳幹の橋排尿中枢と仙髄の排尿中枢との連絡が遮断されると、膀胱が収縮しても尿道が弛緩しない排尿筋括約筋協調不全(DSD)が生じる。本研究はDSD発現機構の解明を目的として、慢性脊髄損傷ラットに対し、グルタミン酸のNMDAおよびAMPA受容体遮断薬を投与して下部尿路機能に対する効果を検討した。 実験には、吸入麻酔下に第7-8胸髄を切断し4週間を経過した慢性脊髄損傷(脊損)状態のWistar系雌ラットを使用した。排尿実験のために、吸入麻酔下に膀胱頂部より細管を挿入して生理食塩水注入路および膀胱内圧測定路とし、外尿道括約筋に筋電図電極を刺入した。一部の脊損ラットには、等容量性膀胱収縮実験のために、膀胱頚部の結紮と尿道内への圧トランスデューサーの挿入を追加した。NMDA受容体遮断薬であるMK-801あるいはAMPA受容体遮断薬のLY293558を第6腰髄レベルの髄腔内に投与し、その効果を検討した。 排尿実験では全例で膀胱収縮に伴い外尿道括約筋筋電図活動が増強した。両遮断薬は用量依存性に膀胱収縮圧と外尿道括約筋筋電図活動を抑制した。等容量性膀胱収縮実験でも膀胱収縮に伴って尿道内圧が上昇するDSDを呈しており、尿道収縮圧は6.8±1.1cmH20(mean±S.E.)であった。両遮断薬ともに、膀胱活動にはあまり影響を及ぼさなかったが、膀胱収縮時の尿道内圧の上昇を抑制し、とくにLY293558投与では3μgで膀胱収縮時の尿道内圧の上昇が消失し、100μgで尿道収縮圧は-1.2±0.6cmH2Oと膀胱収縮時に尿道内圧が低下した。 以上の結果より、脊損後の排尿反射のうち、DSDを起こす主要経路にグルタミン酸伝達が関与していることが考えられた。
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