研究概要 |
[目的]最近、細胞内情報伝達機構におけるリン脂質代謝の役割が注目されているが、膀胱平滑筋のムスカリン受容体におけるシグナル伝達への膜リン脂質の関与は明らかにされていない。今回はラット膀胱平滑筋にトリチウムラベルしたアラキドン酸を取り込ませた後にカルバコール刺激を加え、アラキドン酸の放出と膜リン脂質におけるアラキドン酸含量を測定した。[方法]1)10週令のSD系雄ラットを断頭屠殺して膀胱を摘出し、平滑筋層を1mm^3大に細切する。膀胱平滑筋に細片を95%O_2/5%CO_2で飽和したKrebs-Hansleit液中で〔^3H〕-アラキドン酸と一定時間インキュベートする。2)カルバコール刺激した後に2mlのchloroform/methanol(1:2)を加えて反応を止め、Bligh-Dyer法で総脂質を抽出した。総脂質を薄相クロマトグラフィーで展開し,オートラジオグラフィーで各分画を検出した。〔結果・考察〕膀胱平滑筋の膜脂質中への〔^3H〕-アラキドン酸の取込みは60分まで経時的に増加した。膜脂質内の〔^3H〕-アラキドン酸は大部分は遊離脂肪酸の状態であったが,ホスファチジ-ルコリンやホスファチジ-ルエタノールアミン,ホスファチジ-ルイノシトール/セリンの各分画にも取り込まれていた。10μMのカルバコール刺激によって各種リン脂質分画における〔^3H〕-アラキドン酸は減少していたが,遊離脂肪酸分画中の〔^3H〕-アラキドン酸は有意な増加を見出せなかった。〔^3H〕-アラキドン酸のリン脂質分画中における減少は1mMアトロピンによって抑制された。ムスカリン受容体刺激によって膀胱平滑筋の膜リン脂質が分解されて〔^3H〕-アラキドン酸が放出されるが,放出機序の解明には〔^3H〕-アラキドン酸を十分に取り込ませる必要があり,今後,細胞培養の実験系で検討する予定である。
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