研究概要 |
[目的]最近、細胞内情報伝達機構におけるリン脂質代謝の役割が注目されているが、膀胱平滑筋のムスカリン受容体におけるシグナル伝達への膜リン脂質の関与は明らかにされていない。今回はラット膀胱平滑筋細胞を単離して,カルバコール刺激後のアラキドン酸放出と膜リン脂質におけるアラキドン酸含量の測定を試みた。[方法]1)10週令のSD系雄ラットを断頭屠殺して膀胱を摘出し、実体顕微鏡下で粘膜や漿膜,血管などを可及的に取り除いて平滑筋層のみを分離し,平滑筋を1mm^3大に細切した。膀胱平滑筋の細片を0.2% Col1agenaseと100u/ml Dispase中で35℃,30分間インキュベートする。3分間静置して上清を除去後に同様の酵素処理を行なう。再度上清を得て遠沈して沈澱した細胞をl06μm pore sizeのナイロンメッシュを通して単離平滑筋細胞を得た。2)95%O2/5%CO2で飽和したKrebs-Hansleit液中で[^3H]-アラキドン酸と一定時間インキュベートする。2)カルバコール刺激した後に2mlのchloroform/methanol(1:2)を加えて反応を止め、B1igh-Dyer法で総脂質を抽出した。総脂質を薄相クロマトグラフィーで展開し,オートラジオグラフィーで各分画を検出した。[結果・考察] 1)位相差顕微鏡下で単離平滑筋細胞を観察しながらカルバコールを添加すると一部の細胞に収縮がみられたが,大部分は無変化であった。2)膀胱平滑筋の膜脂質中への[^3H]-アラキドン酸の取込みは経時的に増加したが,前回の平滑筋細片を用いたときと同様に膜脂質内の[^3H}-アラキドン酸は大部分は遊離脂肪酸の状態であった。3)[^3H]-アラキドン酸はホスファチジールコリンやホスファチジールエタノールアミン,ホスファチジールイノシトール/セリンの各分画に取り込まれており,10μMのカルバコール刺激によって各種リン脂質分画における[^3H]-アラキドン酸は減少したが,遊離脂肪酸分画中の[^3H]-アラキドン酸は有意な増加を見出せなかった。[^3H]-アラキドン酸のリン脂質分画中における減少は1mMアトロピンによって抑制された。ムスカリン受容体刺激によって単離膀胱平滑筋細胞の膜リン脂質が分解されて[^3H]-アラキドン酸が放出されるが,放出機序の解明には[^3H]-アラキドン酸を十分に取り込ませる必要があり,今後,細胞培養によって十分に平滑筋細胞を増加させて検討する必要がある。
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