まず、臨床研究においては、膀胱癌症例におけるPyNPase値を多数症例で測定することにより、PyNPase値と患者背景、腫瘍因子との関係を詳細に検討した。対象は、1995年11月より1996年12月までの間に集積した膀胱癌症例で、検体(組織)はcold cup biopsyにより切除し、(1)腫瘍部(T)、(2)腫瘍近傍正常粘膜部(AN:腫瘍より1.5cm以内の正常と思われる粘膜)、(3)正常粘膜部(N:腫瘍より少なくとも5cm以上はなれた外見上正常と思われる粘膜)の3ヵ所より採取した。PyNPase値はELISA法にて測定し、年齢、性別、初発/再発、腫瘍の数(単発/多発)、大きさ、腫瘍の形態、深達度、異型度、浸潤増殖様式との相関につき検討した。110例の登録症例中、適格例は102例であった。全体の組織別PyNPase値は、Tが42.1±51.3(Unit/mg protein)、ANが17.5±22.2、Nが12.7±19.2で、NとANの間(p=0.01)、ANとTの間(p<0.001)に各々有意差がみられた。次いで、腫瘍組織中のPyNPase値と背景因子の相関をみたところ、腫瘍の形態、異型度、浸潤増殖様式との間に有意な相関がみられた。とくに異型度では、Glが28.7±26.8、G2が34.1±32.5、G3が81.7±86.8(p=0.0034)と著明に相関がみられた。一方、深達度とは相関がみられなかった(p=0.4727)が、異型度と深遠度を含めたriskによりlow risk群、high risk群に分けての検討でも有意差(p=0.0048)がみられた。以上を基礎的データとして、次にラットおよびマウスによる動物実験を行った。すなわち、F344雄性ラットとC3H/He雌性マウスを用いて、膀胱発癌剤であるN-butyl-N-(4-hydroxybutyl)nitrosamine(BBN)を8週または12週投与し、4週毎に経時的に屠殺し病理学的検索と同時に膀胱組織のPyNPase値をHPLC法にて測定した。現在、その結果、病理組織学的には、従来のわれわれの膀胱発癌実験と同様に過形成ならびに腫瘍(ラットでは乳頭状非浸潤性癌、マウスでは非乳頭状浸潤性癌)の発生が経時的に認められた。一方、PyNPase値の変動につき検討したところ、ラットでは12週目に、マウスではBBN終了時(8週群)と実験終丁の20週時(12週群)にピークを示した。以上の結果は、PyNPaseが血管新生因子の一つであるPD-ECGFと同一蛋白であることから、膀胱発癌過程における血管新生因子の関与を示唆する興味ある基礎的データと考えられた。
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