本研究では培養膀胱癌細胞株を用いて、シスプラチン感受性と各耐性因子を検討した。シスプラチン耐性膀胱腫瘍細胞のなかで、メタロチオネイン・グルタチオン・グルタチオントランスフェラーゼ・チオレドキシンのすべて各耐性因子が高いものは認めなかったが、各々が独立した耐性因子を演じていると思われた。その結果アポトーシスの発現も各耐性因子間に相関は認められなかった。 そこで我々はシスプラチンの耐性因子の一つとして知られているメタロチオネインという蛋白に着目した。メタロチオネイン遺伝子枯渇化マウスを用いて、そのwild type mouseとともに膀胱腫瘍を発生促進するBBNによる膀胱癌の発生頻度を検討した。メタロチオネイン遺伝子枯渇化マウスは膀胱腫瘍の発生頻度が、wild type mouseに比して高かった。また免疫組織化学的には、メタロチオネイン遺伝子枯渇化マウスに比してwild type mouseはhigh stageの腫瘍が多く、膀胱腫瘍の発生頻度は低いものの増殖速度が速いことを裏付けるPCNA陽性細胞が多かった。これらのメタロチオネイン陽性および陰性膀胱腫瘍を培養細胞とすることに成功した。これらの細胞を用いてシスプラチン耐性に関して検討すると、メタロチオネイン遺伝子枯渇化膀胱腫瘍細胞はシスプラチンにより感受性が高く、アポトーシスに陥りやすいことを認めた。しかしこのアポトーシス制御機構の解明は、本研究期間には行うことはできなかった。 今後は、メタロチオネインによるアポトーシス制御機構の解明と現在のin vitroで得られた結果と実際の臨床検体の検索により、臨床上の癌化学療法にフィードバックできるようさらなる検討を行う予定である。
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