研究概要 |
近年,生活習慣病の関連遺伝子が同定されはじめている。これら研究成果の予防への応用に向けては,1)発症における遺伝要因と環境要因の交絡状況の解明と,2)説明と同意,社会的受容を含めた倫理社会的問題の検討,が必要である.しかし,本態性高血圧などの一般的な生活習慣病においては,発症前の観察期間が長期にわたり,環境要因の詳細な把握および評価が困難である.そこで,申請者らは妊娠高血圧症(PIH)におけるアンジオテンシノーゲン(AGT)遺伝子と妊娠前,妊娠中の環境要因に着目して研究を行っている.PIHも本態性高血圧と同様に,遺伝と環境の交絡により発症する,一種の生活習慣病と考えられる. 今回はPIHにおける遺伝子と環境要因の交絡状況の解明を目的に,患者71例および正常対照者109例のAGTおよびアンジオテンシンIIタイプ1受容体(AIR)とともに,詳細な臨床データおよび生活環境,ライフスタイル・ストレスなどの,合計100項目を解析した.その結果,PIHのリスク要因として,(1)AGT遺伝子T235ホモ接合型,(2)非妊娠時のBody Mass Index≧24,(3)妊娠中の牛乳摂取不足,(4)妊娠中の揚げ物摂取過剰,(5)妊娠中の精神的ストレスの5項目が独立な危険要因として検出された.さらに,それらの複合では,発症リスクが299.5倍と相乗的に高まることがわかった. また,対象集団をAGT遺伝子型によって2群に分けて解析すると,1)T235ホモ接合型の群には,(1)妊娠中の牛乳摂取不足,(2)妊娠中の精神的ストレスが,2)他の群には,(1)非妊娠時のBody Mass Index≧24,(2)妊娠中の運動不足,(3)妊娠中の塩分嗜好が,それぞれPIH発症に独立に関連した. 今後は,遺伝子を予防に用いる場合の問題点などの調査も継続し,さらなる検討を行う予定である.
|