β3アドレナリン受容体(AR)は、新生児の褐色細胞や成人の内蔵脂肪に多く認められ、エネルギー消費や体脂肪分布に関与するといわれている。1995年にβ3ARの遺伝子異常が、肥満、糖尿病の早期発症などに関与する報告があり。初年度である平成9年度は、β3AR agonist投与(理論的には肥満の予防となるはず)のラットモデルを作成し、肥満に対する治療薬としてβ3AR agonistの有用性についての基礎的検討を行った。 8週齢のメスSDrat20匹を5匹ずつ、(1)卵巣摘出群(OVX)、(2)卵巣摘出+β3ARagonist(BRL35135)投与群(OVX+BRL)、(3)偽手術群(Sham)、(4)偽手術+β3ARagonist投与群(Sham+BRL)の4群にわけ、自由摂食にて3週間飼育後屠殺し、体重、体脂肪、血清脂肪、レプチンなどについて測定した。体重はOVX=OVX+BRL>Sham=Sham+BRLであり、体脂肪量はOVX>Sham>Sham+BRL=OVX+BRLとなった。血清総コレステロールはOVX>OVX+BRL=Sham=Sham+BRLに対し、中性脂肪はOVX>Sham>Sham+BRL=OVX+BRLであった。同様な実験を4群間の摂食量一定にして再検すると、体重は同様な傾向だが、総コレステロールは4群間に有意差なく、体脂肪量と中性脂肪はSham>Sham+BRL=OVX>OVX+BRLとなった。結論:(1)エストロゲンの欠乏は、体重と血清総コレステロール・中性脂肪の有意な増加ををたらす。しかし、摂食制限により、エストロゲン欠乏の影響を防ぐことが可能である。(2)エストロゲンの有無および摂食量に関わらず、β3ARagonistは体脂肪量と中性脂肪を減少させる。すなわち、閉経後婦人の肥満防止のためには、エストロゲンの補充、食事制限、さらに将来的にはβ3ARagonistの臨床応用が重要と考えられる。 平成10年度は、日本におけるβ3ARの遺伝子型の頻度および体重、血圧、血清脂質、骨密度、生殖能などの臨床的パラメーターへの関与の疫学的研究をすすめる予定である。
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