【目的】肝細胞増殖因子(HGF)は上皮細胞の増殖作用のみならず、器官形態形成誘導作用を有する、胎児の発育・発達に不可欠なサイトカインである。これまでに気管支、肺胞上皮細胞にHGFのレセプターであるc-metが存在することが報告されているが、肺の形態形成に対するHGFの作用は明らかとなっていない。そこでHGFの肺形成に対する影響を検討するために以下の実験を行った。 【方法】(1)胎生13-20日のWister系ラット胎仔肺を消化酵素処理し、得られた細胞塊(organoid)をコラーゲンゲル内で3次元培養して、その形態を観察した。(2)抗HGFアンチセンスオリゴヌクレオチド(AS)をorganoidにエレクトロポレーション法によって導入し、HGF蛋白発現の変化をウエスタンブロット法にて確認した上で、AS導入によるorganoidの形態変化を経時的に評価した。導入後さらにリコンビナントHGF(rHGF)を添加したorganoid培養も検討に加えた。(3)胎生期別に肺のHGFmRNAの発現をRT-PCR法によって検討した。 【成績】(1)胎生14日以降のorganoidはコラーゲンゲル内で嚢胞状に変化し、電子顕微鏡では肺胞様と気管支様の2種類の構造が認められた。(2)AS導入によってHGF蛋白は、24時間後にその発現が抑制されることが確認された。嚢胞状に変化するorganoid数は、72時問後には未導入の4%にまで抑制され、さらにrHGF添加によって80%まで回復した。(3)嚢胞状に変化する胎生14日以降の肺には、HGFmRNAの発現が認められた。 【結論】胎仔肺の肺胞・気管支の形態形成には内因性のHGF深く関与しており、HGFが胎仔肺の形態形成誘導因子として作用していることが示唆された。
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