SV40T抗原を遺伝子導入することにより樹立した複数のヒト卵管細胞株のうちの1つが、体外受精で余剰となった廃棄すべき初期胚との共培養において有意により良好な卵割を認めることを位相差顕微鏡による観察で認めた。その培養上清は現段階で十分な有意差が認められるだけの発育促進効果を示すに至っていない。したがって、当初予定していた培養上清の蛋白解析を後回しにして、卵管細胞と初期胚との接触による微小環境でのパラクリン的な作用の可能性を求めて、有効であった卵管細胞株の電子顕微鏡による解析をした。その結果、卵管上皮に特徴的に認められる微絨毛が、卵管細胞株にも認められた。この結果により共培養下における卵管細胞と初期胚との接触による微小環境でのパラクリン的な作用の可能性が示唆された。 以上まとめると、研究の第一目的であったヒトの初期胚が卵割を繰り返していくようなヒト卵管由来細胞株の共培養系の確立という点に関しては、ほぼ達成できた。第二の目的であった胚発育促進因子に関しては、微小環境で作用しており検出困難なため、ボイデン・チャンバーを用いた実験や免疫細胞学的実験などの別のアプローチを今後必要とするようになってくると考えられた。体外受精で余剰となる初期胚が最近の症例数の減少と凍結率の増加で入手困難となってきてはいるためもう少し時間がかかることが予想されるが、この研究は重要な要素を含んでいると思われるので十分慎重にデータを積み重ねてから論文発表の形にもっていきたいと考えている。
|