前年度の報告で、従来質が悪いために廃棄していた体外受精の余剰卵でもきわめて高率に胞胚blastocystに到達するヒト卵管由来細胞株の共培養系を確立したこと、電子顕微鏡により微絨毛microvilliの観察されること等を述べた。今年度はその細胞株NT/T-Sをさらに継代するとともに、卵割促進の理由の解析をすすめた。 まず、細胞株NT/T-Sが上皮であることをさらに明らかにするために、免疫細胞染色法によりサイトケラチンの発現を証明した。つぎに、電子顕微鏡によりゴルジ装置が多数存在することより、エンザイム・イムノアッセイ(EIA)にて、初期胚の卵管内発育において注目されておりES細胞の維持に必要不可欠な白血病抑制因子leukemia inhibitory factor(LIF)をNT/T-Sの培養上清で測定した。その結果、極めて高い濃度で培養上清中にLIFを検出した。現在、その他のサイトカイン・増殖因子についても調べる準備をすすめている。そのうえで、未知の因子が関与している可能性がないかについても検討を始めている。 研究の成果の一部は平成11年4月の日本産科婦人科学会で発表予定となっている。論文発表に関しては、この研究が生殖医学の基礎的分野で重要な要素を含んでいるだけでなく、体外受精を胞胚移植という一歩進んだ理想に近い形で実現するための影響力の大きい内容を含んでいるため、慎重にデータを蓄積してから行う予定でいる。
|