既に我々はヒト妊娠子宮筋の初代培養細胞においてオキシトシンがMAP kinaseを刺激する事を確認しているが、オキシトシンのMAP kinase刺激に関する細胞内情報伝達機構の詳細についてさらなる検討を加えた。オキシトシンがMAPkinaseの上流に位置するkinaseをも活性化するかどうかをras活性化因子であるSOSに着目した。まずSOSの燐酸化をウエスタンブロットによるSOS蛋白の電気泳動上のmobilityの差で検討し、オキシトシンによりSOSが燐酸化される事を確かめた。次に、dominant negative SOS(ras活性化因子部分を欠如したSOS)の遺伝子を妊娠子宮筋の初代培養細胞に分子生物学的手法を用いて導入しオキシトシンのMAP kinase刺激に及ぼす影響について検討した所、オキシトシンのMAP kinase刺激が抑制された。以上よりSOSがMAP kinaseの上流に位置している事が明らかになった。次に一般に切迫早産の治療に使用されているリトドリンがオキシトシンのMAP kinase刺激に及ぼす影響について検討を加えた。リトドリン前投与しオキシトシンのMAP kinase刺激をMAP kinase抗体での免疫沈降、in vitro kinase assayを用いて検討した。リトドリン前投与によりオキシトシンのMAP kinase刺激が抑制された。以上よりオキシトシンのMAP kinase刺激経路の上流にras活性化因子であるSOSが存在しこの経路はオキシトシンによる子宮筋収縮に関与している事が示唆された。今後、当初の計画どうり特異的なMAP kinase経路のinhibitorがオキシトシンによる子宮筋収縮を抑制するか検討中である。
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