ヒト卵巣表層上皮細胞についての研究を効率よく行うため、不死化ヒト卵巣表層上皮細胞の細胞系を確立した。患者の同意の下に医学的適応で摘出された正常卵巣を材料とし、卵巣表層上皮細胞を分離、培養した。この細胞にリン酸カルシウム法を用いてSV-40ラージT抗原遺伝子の導入を行い、増殖のよい細胞を選択的に培養することでトランスフオ-マントを選択した。この細胞系は継代培養を行った後も卵巣表層上皮細胞の性格をよく維持しており、ヒトについてのこのような細胞系は世界的にもほとんど報告されていない。今後の研究を進める上できわめて有用な細胞系であると期待される。 10%ウシ胎児血清(FCS)存在下で培養した不死化卵巣表層上皮細胞よりRNAを抽出し、それぞれの遺伝子に特異的なprobeを用いたRT-PCR法を行ったところ、Sterol carrier Protein 2(SCP2)、Steroidogenic acute regulatory protein(StAR、エストロゲンレセプターの遺伝子が発現していた。このことから、不死化卵巣表層上皮細胞はステロイド産生細胞としての潜在的な能力を有していることが明らかになった。これは、不死化させる前の初代培養細胞と同様の結果であり、このことからもこの不死化させた細胞系は卵巣表層上皮細胞の性格をよく維持していることが明らかとなった。現在は、この細胞系を種々の刺激因子、ホルモンで刺激し、ステロイドホルモン産生に関与することが知られている蛋白の発現の変化について検討を進めている。
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