これまでに我々は、ヒト卵巣表層上皮細胞には、sterol carrier protein 2(SCP2)、steroidogenic acute regulatory protein(StAR)、エストロゲンレセプターの遺伝子が発現しており、ステロイド産生細胞としての潜在的な能力を有していることを明らかにしていた。 今回は、卵巣表層上皮細胞が顆粒膜細胞に分化するとの仮説を検証するため、エストロゲン合成に必須の酵素であるアロマターゼに着目し、ヒト卵巣表層上皮細胞におけるアロマターゼ発現の調節について検討した。ヒト卵巣表層上皮細胞を無血清培地で18時間インキュベートした後に、8-Br-cAMP(1mM)、ホルボールエステル(100pg/ml)、あるいはエストラジオール(10ng/ml)存在下で24時間培養した。回収した細胞からRNAを抽出して、ヒト卵巣のアロマターゼ遺伝子に特異的なプライマーを用いてRT-PCRを行った。刺激に対するコントロールとしては0.01%のDMSOを添加した。またRT-PCRの条件は内因性のヒトp-グロビン遺伝子の発現で比較した。 ヒト卵巣表層上皮細胞にはアロマターゼのmRNAは発現していなかった。8-Br-cAMP、ホルボールエステルやエストラジオールによる刺激を行っても、アロマターゼの発現は認められなかった。さらに、SCP2、エストロゲンレセプターについて同様に検討すると、いずれも刺激による発現の変化はみられなかった。一方、ヒト卵巣の間質由来の培養細胞では、ステロイドホルモンは産生していなかったがアロマターゼおよびSCP2の発現が認められた。 以上の結果より、卵巣表層上皮細胞が顆粒膜細胞に分化し、ステロイドホルモン産生能を獲得するという仮説を支持する証拠は得られず、SCP2やエストロゲンレセプターは他の細胞機能に関与していることが示唆された。
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