研究概要 |
新しく開発した高データサンプリング血管径拍動記録装置を用いて、胎児下大静脈拍動波形について検討した。対象は、I群:超音波計測上正常発育群で臍帯動脈Resistance Index(RI)が+1.5SD以内を呈した胎児68例(妊娠20-40週)とII群:臍帯動脈RIが+1.5SD以上を呈した54例(妊娠28-40週)で、II群においては分娩前10日以内の最終計測値を使用し検討した。方法は、血管内壁間の動きを高サンプリング(3000Hz)可能なエコートラッキングシステムを備えた超音波装置を使用し、下大静脈の静脈管合流部より末梢側から拍動波形を測定した。 結果は、胎児下大静脈拍動波形は成人の中心静脈内圧曲線と一致した波形を呈し、三つの山A、C、V波と二つの谷X,Y波が認識され、A波は心房収縮、C波は三尖弁閉鎖、X波は心室収縮、V波は三尖弁開放、Y波は心室拡張に一致していた。I群は、妊娠週数進行(体重増加)に伴いA、V波高が増加した。右心室収縮に伴う圧較差に比例し右心駆出を反映するX descent ratio(A-X/A%)と、右心拡張に伴う圧較差に比例し右心充満を反映するY descent ratio(V-Y/V%)も緩やかに増加した。II群は、X descent ratioにより正常、高拍動、低拍動型に分類され、51例中10例(19%)はX、Y descent ratioとも正常範囲を呈した。24例(44%)は右心収縮によるX波高の下降によるX descent ratioが有意に増加(>+1.5SD)、Y descent ratioは正常範囲内を呈した。7例(13%)は、右房圧増加によるA波高の上昇によりX descent ratioは有意に増加、右房から右室への血液潅流低下によるY descent ratioは、有意に低下(<-1.5SD)した。13例(24%)は、X、Y波高の上昇によりX、Y descent ratioが有意に低下(<-1.5SD)した。高拍動(X descent ratio>+1.5SD)31例のうちY descent ratioが反対に低下(<-1.5SD)した7例と、低拍動(X、Y descent ratio<-1.5SD)を示した13例は、分娩前に異常心拍パターン(遅発性一過性徐脈と基線細変動の減少)を呈し帝王切開にて分娩された。 胎児中心静脈内圧曲線は、下大静脈拍動波形によって示され、胎盤血管抵抗に起因した右心後負荷の変動を記録することができる。また、この中心静脈内圧曲線の分類と右心機能の評価は、胎児循環動態の新しい指標となると考えられた。
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