これまでに、当教室では鼻腔の持つ呼吸運動に対する影響についていくつかの実験を行ってきた。その結果、1)鼻腔に加えたflow刺激は横隔膜の筋活動を減少させ、呼吸周期を延長させること、2)この現象の入力路は三叉神経であること、3)鼻腔刺激により内喉頭筋の活動性は、閉鎖筋、開大筋いずれも、呼吸位相に関わらず増大すること、4)内喉頭筋運動ニューロンを支配する呼吸ニューロンは、内喉頭筋の増強現象には関与しないことが明らかになった。これらの成績は三叉神経から呼吸ニューロンを介さずに内喉頭筋運動ニューロンにいたる神経経路の存在を強く示唆する。この神経経路を解明するための手段のひとつとして、内喉頭筋運動ニューロンが脳幹内のどの部位から軸索投射を受けているのか組織学的に解析するとともに、鼻腔感覚を支配する三叉神経脊髄路核との関係を明らかにする目的で本研究を行った。そのために、ネコを用いて脳幹内の疑核に存在する内咽頭筋運動ニューロンを同定して、この近傍に逆行性標識(HRP)を注入した。その後、潅流固定して摘出した脳幹から組織標本を作成した。これまでの結果ではHRPの疑核内注入では三叉神経脊髄路核内のニューロンは標識されなかった。この成績は三叉神経脊髄路核と疑核内内喉頭筋運動ニューロンの間には解剖学的に直接的投射が無いことを示す。したがって鼻腔flow刺激による内喉頭筋増強現象すなわち三叉神経から内喉頭筋運動ニューロンにいたる経路はいくつかのシナプスを介していることが示唆された。しかし、現在までの実験では疑核内に十分にHRPが注入された例が少なく、平成10年度はさらに実験を進めて確実なデータを増やしていきたい。
|