【対象及び方法】 頭頸部(扁平上皮癌)患者の手術摘出標本および血中リンパ球よりDNAを抽出し[γ-^<32>P]で標識したプライマーでPCRを行い電気泳動後オートラジオグラフィーにより結果を得た。また、8種類のpolymorphic markerを用いてRERについて検討した。 【結果】 1)9p21領域の遺伝子欠損:IFNA、D9S171を用いて評価可能であった67例のうち15例(22%)にLOHが認められた。症例を再発・非再発群とに分けると再発例で24例中10例(42%)、非再発例で43例中5例(12%)ご再発群でLOHの頻度が有意に高かった。 2)RERの検討:79例中RERは8例(10%)で、そのうち6例は舌癌であった。舌癌におけるRERの頻度は38%(16例中6例)で、舌癌以外(3%、63例中2例)との間に有意差が認められた。また舌癌16例を45歳以上と以下に分けるとRERの検出された症例は45歳以下で8例中5例(63%)、45歳以上で8例中1例(13%)と若年例に集中していた。 3)3p領域の遺伝子欠損:D3S1067を用いて評価可能であった症例は45例でLOHが認められたのは11例(24%)であった。9p21及び3p領域のLOHの有無で術後3年での生存率を比較すると、喉頭癌や下咽頭癌においてはLOH(-)症例での生存率が有意に高かった。しかし、口腔癌ではLOHの有無による生存率の差は認められなかった。 【考察】 9p21領域の遺伝子欠損は既存の因子とは独立した予後因子であり、短期予後に関与していると思われた。またRERが比較的若年発症例に高率に認められたことから、若年者舌癌の病因としてゲノムの不安定性の癌化への関与が示唆された。9p21、3p領域の遺伝子欠損と予後との関係では原発巣の部位により差が生じており、今後は部位別の詳細な検討が必要であると考えられた。
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