研究概要 |
鼓室形成術には,様々な耳小骨連鎖形成材が用いられている。しかし,これら形成材の形状,材質および連鎖形成位置は,主に術者の経験に基づいて決められることが多く,動力学的見地からの報告は少ないため,最適な鼓室形成術は確立されていない。そこで,本研究では,複雑な形状をした生体構造を容易にモデル化でき,かつ生体実験に頼ることなく細部の動きを把握できる,有限要素法(Finite Element Method : FEM)により,ヒトの中耳をモデル化する.そして,キヌタ骨を様々な形成材で置き換え,その形状,材質および形成位置が伝音特性に及ぼす影響を調べ,最適な鼓室形成法の検討を行う。 現在までに,ヒト正常中耳FEMモデルと,キヌタ骨を棒状の形成材(コルメラ)で置き換えたモデルを作成し,まず,コルメラの材質を変化させて伝音特性を求め,正常耳のそれと比較した.用いた材質は,ヤング率が高い順に,ハイドロキシアパタイト,キヌタ骨,軟骨とした.その結果,コルメラにハイドロキシアパタイトおよびキヌタ骨を用いた場合の伝音特性は,正常耳と似た特性を示した.これに対し,軟骨製のコルメラは,300Hz以下および2kHz以上で,正常耳に比べ低い伝音特性を示した.これは,比較的剛性の低い軟骨製のコルメラには,振動時に曲げが生じるため,伝音特性が低下する事が判明した.以上から,コルメラには,キヌタ骨程度の剛性が必要であることが示唆された。 次に,ハイドロキシアパタイト製のコルメラを用い,その置き換えを変えて,解析を行った。その結果,コルメラを鼓膜上中央部付近およびツチ骨上に立てた場合が最も伝音効率が良いことが明らかとなった。 今後は,形成材の形状の影響および鼓膜が変質している場合の解析を行う予定である。
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