黒色で振戦を伴うミュータントハムスター"black tremor"は、中枢神経系のミエリン形成不全をきたすことが知られている。しかし、その聴覚系の生理学的・形態学的所見についての報告は国内はもとより海外でも未だ報告がなかった。今年度は、このミュータントハムスターの聴覚伝導路の異常について、電気生理学的所見および若干の形態学的所見について検討した。 成熟したミュータントハムスターおよび、成熟した正常シリアンハムスターを用いて、ペントバルビタール腹腔内注射による全身麻酔後、聴性脳幹反応(ABR)および蝸電図(APおよびCM)を測定した。ミュータントハムスターのABRは、正常コントロールに比べ、全く異なった波形を呈し、潜時は、第1波のからすべて有意に延長していた。ミエリン形成不全ハムスター群の第1潜時は正常群のN1潜時に比べ、有意に延長していた。また、N1振幅には有意差は認めなかったが、個体ごとにばらつきが多く、振幅が小さい個体が多く存在する印象があった。さらに、CM振幅は、両群で明らかな相違は認められなかった。これらの結果から、ミエリン形成不全ハムスターでは、末梢神経系である蝸牛神経遠位部から中枢側の聴覚伝導路のミエリン形成不全による活動電位の伝導速度の遅れや発火同期性の低下が生じていることが示唆された。 さらに、現在、中枢神経系のみならず、末梢神経系も含めた聴覚伝導路の形態学的検索を光学顕微鏡、透過電子顕微鏡を用いて検討を進めている。また、これらの成果については、雑誌投稿準備中である。
|