IgA腎症はIgAが腎臓に沈着して障害をおよぼす疾患とされている。原因であるIgAに関しては、多くの仮説があるが、我々は扁桃で産生されるパラインフルエンザ菌特異的IgAがその原因ではなかろうかと考えた。本研究ではIgA腎症患者の扁桃細胞より、パラインフルエンザ菌特異的IgAが産生されているのかどうか、パラインフルエンザ菌抗原がIgAを産生されうるようなサイトカイン産生を誘導しうるのかについてin vitroで研究をおこなった。対象は、IgA腎症患者14名、慢性扁桃炎患者19名を対象とした。その結果、IgA腎症患者と慢性肩桃炎患者間では、無刺激、パラインフルエンザ刺激、緑膿菌刺激の3群間での産生される総IgA量に差は認めなかった。ただしIgA腎症患者において3群いずれにおいても総IgA量が多い傾向があった。おそらく症例が多くなると有意差がでると思われた。パラインフルエンザ菌の外膜刺激では、IgA腎症患者扁挑において、パラインフルエンザ菌特異的IgAが慢性扁挑炎患者の扁桃に比べ有意に多く産生された。一方緑膿菌刺激では、IgA腎症患者および慢性扁挑炎患者間で差はなかった。次に培養土清中のサイトカインをELISA法にて測定した。その結果、IgAへのクラススイッチ因子であろうとされるTGF-βとIL-10の産生が増強していることが判明した。それはIgA腎症患者、慢性扁桃炎患者いずれも同じであり、パラインフルエンザ菌の外膜刺激によって特異的に誘導されるものではなかった。緑膿菌刺激ではIgA腎症患者および慢性扁桃炎患者ともそれらサイトカインの誘導は認められなかった。IL-4やIL-6の産生に関しては、IgA腎症患者および慢性扁挑炎患者とも、いずれの刺激でも差を認めず、パラインフルエンザ菌の外膜刺激によって特異的に誘導されるものでもなかった。 以上のことより、IgA腎症の病因に扁桃におけるパラインフルエンザ菌特異的IgA産生が重要であることが判明した。IgA腎症の治療法として行われている扁桃摘出もこの事に起因するのではないかと思われた。
|