多くの研究者の研究にもかかわらず、正常、病的蝸牛の分子機構はほとんど解明されていない。その理由として、その器官の特殊性によるところが多い。蝸牛は小さいのみならず、その中に多種類のお互いに全く違った細胞が骨胞に囲まれた状態で存在している。このため蝸牛から生化学的、分子生物学的分析に耐えるサンプルを得るのは困難を極める。 Differential Display PCR法は各種疾患における遺伝子発現の動態を検出可能にした点で画期的である。この手法は必要なサンプル量が、旧来の手技に比べ非常に少なく、特に内耳の研究を遂行する上で有利である。我々はこの手法を用いて、内耳に特異的に発現している可能性のある遺伝子関連クローンをこれまでの研究によって得ている。本年度、これらのクローンを蛍光指標し、まずラットの遺伝子の一部であることを確認するためサザンハイブリダイゼーションを、実際のラット蝸牛での発現を確認するためにノーザンハイブリダイゼーションを施行した。現在は、ライブラリースクリーニングにて、より長いクローンを得るプロジェクトが進行中である。 本年度はこれに加えてラット内耳におけるホルモンレセプター(アルドステロンレセプター、ANPレセプター、バゾプレッシンレセプター)の同定を行った。各種ホルモンレセプター、成長因子レセプターは内耳に多く発現しており、この結果も蝸牛特異的遺伝子の同定に向けた一助になる。また本年度は、来年度の研究に向けて、遺伝子を電気生理学的に検討する準備を行った。さらに、アミノ酸糖体、騒音負荷による難聴のモデル作成の準備を行った。
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