耳小骨を人工耳小骨で置換した場合の振動伝達特性を評価する場合、これまではアブミ骨振動や内耳活動電位を測定するのが一般的であった。しかし、内耳への振動伝達を考えた場合、内耳基底板の振動を測定する方がより正確な評価が可能と考えられるため、今回動物を用いて内耳基底板振動の測定を試みた。 実験動物にはプライエル反射および鼓膜所見正常のハートレー系白色モルモットを用い、基底板振動の測定にはレーザードップラー速度計を使用した。ペントバルビタール腹腔内投与後、気管切開を行い、レスピレーターにて調節呼吸とした。耳介とともに軟骨部外耳道を切断し、側方より中耳骨胞を開放した。測定部位から良好なレーザー反射光を得るために基底板上に数個のガラスビーズを散布した。振動速度計と動物は防振台の上にのせ、振動ノイズを除いた状態で測定を行った。41耳で基板底振動の測定が可能であった。特徴周波数が10kHzであった22耳における10kHzにおける振動速度は90dBSPL刺激時に0.68±0.22mm/secであった。ついで、動物の呼吸状態による影響を調べるため、低酸素負荷での測定を行った。1分間レスピレーターを停止したとき、基底板振動速度のピークは2.2dB低下しが、呼吸再開1分後にはほぼ負荷前の値に回復した。また、人工呼吸器停止後60分の死後には振動速度は901dB低下した。 実験結果から基底板の機械的応答には鋭敏な周波数選択性がみられ、音圧が小さい時ほど感度が高く非線形性を示すことが分かった。基底板の機械的応答は低酸素負荷あるいは死後には低下し、特に特徴周波数周辺で明らかであった。低酸素負荷による変化は可逆性のものであり、基底板の機械的振動の増幅機構は酸素依存性であると考えられた。
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