中耳の振動伝達特性を評価する場合、これまではアブミ骨振動や内耳活動電位を測定するのが一般的であった。しかし、内耳への振動伝達を考えた場合、内耳基底板の振動を測定する方がより正確な評価が可能と考えられる。これまでレーザードップラー速度計を用いた内耳基底板振動の測定法を確立してきた。今回、この方法を用いて手術において使用されるリドカインの基底板振動に対する影響について検討した。 実験動物にはプライエル反射および鼓膜所見正常のハートレー系白色モルモットを用い、ペントバルビタール腹腔内投与後、気管切開を行い、レスピレーターにて調節呼吸とした。今回は、基底板振動の測定とともに鍋電図の記録を行った。リドカインは蝸牛内に直接投与した場合と静脈内投与(1.5mg/kg)を行った場合で検討した。 リドカインを蝸牛内に投与した場合、特徴周波数周辺で有意に内耳基底板の振動速度が低下し、振動速度の低下は刺激音圧90dBSPLで最大3.9dB、70dBSPLで10.2dBであった。また、経時的な観察では基底板振動はリドカイン投与後10分で2.1dB低下したが、120分後には1.4dB回復し、リドカインの基底板振動に対する影響は可逆性であると考えられた。一方、CAP振幅は刺激音圧90dBpeSPL以上で有意に減少し、90dBpeSPLで約23.0dBに相当するCAP振輻の減少がみられた。リドカイン静注では基底板振動、CAP振幅ともに有意な変化はみられなかった。このことより、蝸牛内に投与されたリドカインは外有毛細胞と蝸牛神経両者に直接的に作用するが、静脈内投与では基底板振動、CAPともに有意な変化はみられず今回の投与量では蝸牛機能に影響はないと考えられた。
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