我々は、最初に絶水刺激をあらかじめ施行したラットに音負荷をかけ、同じ音負荷をした正常ラットとの違いを免疫組織化学的に比較したが、明らかな差異を切片上で認めることはできなかった。聴覚系におけるFOS蛋白の発現を確実に把握するために、我々は一側内耳破壊後における経時的変化を免疫組織化学的に検討した。内耳破壊後1日目、5日目、10日目および20日目のラットを用いて中枢聴覚系の神経核である蝸牛神経核、上オリーブ核及び下丘でのFOS蛋白の発現を観察した。また同ラットを用いて、mRNAレベルで内耳破壊後に変化を認めた中枢系における主要な興奮性伝達物質であるグルタミン酸の受容体の一つであるNMDA1型サブタイプについても、特異的抗体を使用して免疫組織化学的にその変化を同時に検討した。しかし、FOS蛋白及びNMDA1型サブタイプは、免疫組織化学的レベルにおいては著しい変化を認められなかった。今後の予定として我々は、次に生体内においてストレスに関与し、また中枢神経系でNMDA型グルタミン酸受容体と密接な関係がある一酸化窒素(NO)の内耳破壊による変化を、酵素抗体法及び免疫組織化学法を用いての検討、そして新たに人手したNMDA受容体欠損マウスのストレス刺激下における聴覚系での変化を脳幹聴性反応(ABR)にて検討したい。
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